ヴィリエ・ド・リラダン未来のイヴ

未来のイヴ (創元ライブラリ)

未来のイヴ (創元ライブラリ)

マッドサイエンティストとしてのエディソンと、彼の作る人造人間―アンドロイド―に翻弄されるロマン主義的青年貴族エワルドの物語。

恋人の完璧な外見に比べて内面の卑俗さに絶望したエワルドは、外見そのままで高貴な魂を持ったそれを手に入れるために人造人間を製作するというエディソンの誘いに乗ることになる。

エディソンの人造人間制作術を可能にしたのが、(当時最先端であった)写真、電報、蓄音機などのテクノロジー原理である。特に電気は人造人間に生気を吹き込み、生命を書き込むことを可能にする不可視の存在である。電気によって生命は肉に刻み込まれることになるのだが、不可視の電気が発する音は不必要なものとして肉によって押さえ込まれる存在でもある。こうした電気のあり方は、神経系に対比されてしばしば語られる。そもそも人間の神経系自体は電気信号によって刺激が伝達されることから電気=生命というあり方も間違いとは言えないだろう。

当時の技術の粋を結集してつくられたアンドロイドはオリジナルである生身の人間を超える存在となる。ここにはオリジナル―コピー、人間―自然という対立も透けて見える。
また、電報や電信といった距離を零化するようなメディアの話や、音響、交霊術の話も組み込まれており、結論もこれら抜きには語りえない。こうした観点からも極めて興味深い。