無題

授業用資料として

〈アート・フィールド〉フランス現代美術

〈アート・フィールド〉フランス現代美術

ポンピドゥ・センター設立を中心にして、その前後のフランスの現代アートに関する言説を考察している。構成としてはフランスの現代アーティストの動向とインタヴューからの分析。

<内容について>

戦後の美術世界では、個人や企業を中心としたアメリカに対し、初代文化担当国務大臣アンドレ・マルローの政策を見ても分かるように、フランスは国家が美術官僚制度を支えていた。国が文化を支えていたのである。このような状況下で、冷戦下ではパリからニューヨークへと芸術のヘゲモニーが移行した。だが、これはモダンからポストモダンへの時期がパリとニューヨークで同じであった、ということを意味するのではないと岡部は述べている。パリでは、パリ独自の速度とスタイルでこの移行が起こったのである。

このような状況に加え、60年代には日常の場を美術に取り込んでいく反芸術の動きが生まれ、これまでの美術館制度の革新を助長した。

岡部によれば、このようなモダンからポストモダンへのターミナルとしての存在が1977年に創立されたポンピドゥ・センターなのである。


80年代に入り、世界的な美術館建設ラッシュの中、フランスにもその波は押し寄せた。さらに、文化の地方分権化という方針とも重なり、フランス各地に小ポンピドゥのような現代美術を扱う美術館が数多く設立された。*1
80年代は現代アートが一般の目に触れるようになってきた時代といえる。

… … …

ざっとの概略。

この本の出版は92年なので、90年代の話はさほど多くはない。本全体としては、ポンピドゥ・センターが設立される前の話は結構良くわかるのだが、設立してからの内容にいまいち不満を感じる。特徴としては言及されるフランスの現代アーティストの数が多い。もちろん、良し悪しはあるとは思うけれども、、ともすればアーティストやその作品紹介などで終わってしまう感もあった。
また、絵画のポストモダンに言及することを目的の一つとしているということで、ロザリンド・クラウスの四角形を持ち出している章があるけれども、筆者とクラウスの考え方の違いがよく分からなかった。今の段階ではこの本からは絵画のポストモダンということは良くわからなかったというのが正直なところ。ポンピドゥ・センターがボードリヤールの言う「文化の死」を導いたのか、ド・デューヴの「サヴァイヴァルのチャンス」として機能したのかということを第一章*2で言っているので、これに対してもっと言及して欲しかった。
後、個人的にはフランスの歴代の文化省大臣の政策を中心とした話をもっと知りたかった。
第二次大戦後のパリとニューヨーク、フランスとアメリカの関係はギルボーのほうが詳しい。フランスの現代アーティストの名前とその動向を知る導入書としては説明も割りとあるのでよいかもしれない。

id:akfさん、もう遅いかもしれませんが、ボルタンスキーと著者のインタヴューも載っています。

*1:FRAC(les Fonds Regionaux d'Art Contemporain:現代美術地方基金)の存在もある

*2:p24