末期ローマの美術工芸

末期ローマの美術工芸

リーグル。邦訳はほんの少し前に出たばかり。リーグルでhaptiqueを扱う際に気をつけなければならないのは、版によってはこの語が登場しない場合があるということ。
この著作自体は、しばしば言及されるように、芸術を生み出すことになり、そこに内在する精神すなわち「芸術意思 Kunstwollen」をめぐる考察として扱われることが多い。当然実証的な論旨が中心ではあるが、基本的にはギリシア美を絶頂としていることには注意が必要。またhaptiqueとはエジプトの浅浮き彫りに対して用いられる概念であり、この浅浮き彫りは遠隔視では生気を失うが、手で触りながら見る、「近くでまさぐるようにみる」ことでその生気を取り戻す。つまり近接視としてのあり方と密接に関係する。そこには身体的な作用が伴なわれることになるといえるだろう。自らを不動の一点として対象を眼差すような見方ではなく、身を乗り出して対象に接近しつつ見るようなあり方。明確な主客をずらすしていくような眼差し方。このあたりはヒルデブラントも言及している。
しかしながら、こうしたhaptiqueのあり方はやはりエジプトの浅浮き彫りに限定して用いられる概念であり、絵画に対して用いられる概念ではない。そもそもドゥルーズはリーグルから直接ではなく、マルディネを経由してhaptiqueの概念を受容する。さらに、ベーコンの絵画に対して用いるとき、それはベーコンの絵画の三要素およびそれらを統合する色彩感覚を示すものとして提示されることになる。身体に関してはある意味共通点を見いだすことができるかもしれないが、ベーコンの用いた技法においてリーグルとのズレを見いだすことができるだろう。