1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)

1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)

ビッグ・ブラザーと呼ばれる存在に常に監視されるようになった未来。人々はビッグ・ブラザーに監視され、隣人や見知らぬ人に絶え間なく見張られることになる。監視の話では必ずといっていいほど言及される一冊。

監視の話に関係するのはもちろんなのであるが、それと同様に重要なのが、監視に比べてさほど言及されることが無いように思われる言語と記憶の話である。政府によって発表された予言が外れた場合は、事実のほうを曲げることになる。つまり、メディア―例えば新聞―に出た情報は逐一監視・検閲され、不都合な記事はすべて廃棄され、予言に沿うように作り直される。すなわち、過去が現在を通して未来から形成されることになる。
これと同時に進むのが、言語狩りである。思想や表現を醸成する言葉の意味内容はどんどんと削られ、そうした人間活動を表現するような内容をそぎ落とした言葉だけが残っていく。言葉の意味内容は切り詰められていくのだが、こうして改訂された言葉が新語法として辞書に掲載され、ビッグ・ブラザーとともに世界を覆っていく。

1984的な世界では<監視―記憶―言語>が1セットとして働くことになるのである。そこではメディアがどのような役割を果たしているのかを考えて見たい。