博物館学―フランスの文化と戦略

博物館学―フランスの文化と戦略

20年程度昔の情報なので、若干古いことには注意が必要。

1970年代から80年代後半にかけてのフランスの社会政策は大きな転換期を向かえ、どのような方向に舵を切っていくか決めねばならなかった。文化・芸術に関しても例外ではない。アンドレ・マルローからのある意味中央主義的な芸術・文化制度が破綻をきたすようになってきたのである。

1970年代から80年代にかけてのフランスの文化政策を理解するための図式は、ある程度わかりやすいものであるといえるだろう。すなわち、中央-地方、国家-地域といったような図式を解体しようとするものであった。こうした解体を示すキーワードとして「脱中央集権化(décentralisation)」、「脱中央集中化(déconcentralisation)」―必然的に地方分権へとつながる―が挙げられる。

地方分権の理念は1972年の社共共同政府綱領*1において宣言されていたが、70年代には実現せず、1981年のミッテラン政権が誕生するまで待たなければならなかった。
1981年5月、ミッテラン社会党)が勝利することで、地方行政の抜本的改革が行われる。社会党が掲げた基本政策が先に述べた脱中央集権化と脱中央集中化である。
こうした中で、文化政策はといえば1981年第二次モーロワ内閣の文化大臣にナンシー大学法学教授ジャック・ラングを迎えることで進展を見せる。たとえば国家予算に占める文化予算の占有率は2倍弱に跳ね上がり、その後も上昇を続け国家予算の1パーセント近い数字を占めるようになるのだ。*2

脱中央化による地方分権化が進む70,80年代を境にしてそれ以前/以降で大きく文化政策は形を変えることになった。そこでこうした改革以前の制度をとりあえず旧制度として話は進む。
まずは博物館制度に関してである。

    • 博物館制度

そもそも1975年から85年にかけては世界的な博物館(美術館含む)*3建設ブームであった。フランスも例外ではなく、かなりの数の博物館がこの時期に建設されることになったのである。*4
さて、旧制度化ではフランスの人文系博物館制度は法制度上二つに大きく分けることが出来る。
それが文化省*5のフランス博物館局*6の管轄下にあるものとないものである。管轄下にないものとしては、「統制博物館」に数えられない私立博物館とそのほかいくつかの国公立博物館*7である。
問題なのは管轄下にある博物館*8である。それは旧制度化では3つのカテゴリーに分類される。
1、「国立博物館」(Musée national)
2、「指定博物館」(Musée classé)
3、「統制博物館」(Musée contrôlé)
このうち1の職務に携わる館員は国家公務員であり、2,3は基本的に地方公共団体や私的法人に属する館員である。ただし2のスタッフの任用はフランス博物館局に任命権がある。また、2,3はフランス博物館局から学術的・行政的指導を受ける代わりに、国家から財政的な援助がなされることになる。また、物品収蔵時には必ず「指定・統制博物館美術評議会」*9に諮らなければならない。

    • コレクション

こうした博物館に所蔵されるコレクションは公的国有財*10となり、コレクションには譲渡不可能性*11と時効非適用性*12の性質を帯びることになる。これによって博物館は目録リストに掲載された物品の売買が禁止される―ゆえに蔵品目録の作成・維持が義務付けられる―と同時に、たとえ盗難にあったとしてもそれを常に国家が回収することが出来るようになる。*13
つまりコレクションは徹底的に国家の管理下におかれるのだ。しかし極めて中央集権的な管理体制ゆえに、地方の施設や館員らとの軋轢を生じさせる原因にもなった。こうした軋轢を解消しようというのが改革の一つの柱となるのである。

*1:Programmes communs

*2:91年の段階で0.86%

*3:こうした博物館の定義はユネスコの機関「国際博物館評議会」によって定義される。そしてこの定義の起草を行ったのが博物館学(muséology)の創始者であるフランス人文化人類学者ジョルジュ=アンリ・リヴィエールである。こうした博物館のポイントとしては「社会奉仕」が挙げられる

*4:1975年時点で1250館だったのが1985年には1921館に増設された

*5:Ministére de la Culture

*6:Direction des musées de France

*7:たとえばフランス学士博物館(Musée de l'Institution de la France)や国立系でありながらも行政管轄権が文化省文化財局(Direction du patrimoine)に属す博物館

*8:約900館

*9:Conseil artistique des musées classé et contrôlé

*10:dominalité publique

*11:inaliénabilité

*12:imprescribilité

*13:アメリカでは博物館・美術館が資産を売買することによって運営費を捻出するケースも存在する